真言宗の作法で最初に行う洒水(しゃすい)は、呪文を唱えてお加持した水で、その場所を清めるために行われます。
この際、散杖(さんじょう)と呼ばれる木の棒で器を叩き、洒水器に入った水を実際に撒きます。
しかし、かつては洒水器を散杖で叩くことなく、そのまま水を撒いていたようです。
壇の上には手書きの曼荼羅が敷かれていたため、時には曼荼羅に水が滴り落ちてしまうこともありました。
曼荼羅には多くの仏さまが描かれていることから、その様子は、まるで仏さまが涙を流しているかのように見えることもあったそうです。
そのことがきっかけで、現在では散杖で器のふちを叩き、水を落とす作法が定着したと言われています。
今では当たり前となっているこの作法も、思いがけない出来事を契機に少しずつ変化し、今日の形になっていったのですね。